専門家インタビュー

  • 森田 敦子 インタビュー

    東三河発信のフェムテックが
    日本の模範に

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    株式会社サンルイ・
    インターナッショナル
    代表取締役
    株式会社Waphyto 代表取締役

    森田 敦子

    愛知県豊橋市出身、植物療法士。株式会社サンルイ・インターナッショナル代表。株式会社Waphyto代表。客室乗務員勤務時代に体を壊したことがきっかけでフランス国立パリ13大学で植物薬理学を学ぶ。女性のトータルライフケアブランド「Waphyto」を立ち上げ、フェムテックやフェムケアに関する活動を積極的に展開。

    神秘的な女性の体の中にこそテクノロジーが存在する

     本来、フェムテックとは女性の体に起こるさまざまな健康課題を解決するためにテクノロジーを活用することですが、私は、そもそもフェムテックとは、女性の体そのものにあると考えます。生理が始まり、排卵、受精、着床して子どもを宿し、その子を守るために自然と体調が変化する。こうした神秘的な女性の体の中にこそテクノロジーがあると思っています。
     私はパリで薬草学を学んだ時、食欲や睡眠欲と並んで人間の本能のひとつである性科学について正しい知識を持つことが大切だと教わりました。海外とは違い日本では明治以降、女性が性について話したり、性欲があるというのははしたないことと考えられ、今も広く語られることはありません。小学校では子どもたちに対して性教育が行われますが、真髄がきちんと語られていないことが多いと感じています。思春期の女の子たちは性の悩みについてお母さんや先生には相談しづらい、と思っているのも現状です。
     性は人間の尊厳であり、誕生につながる大切なことです。まずは将来のために、子どもたちに対して女性の体にあるテクノロジーをしっかりと教えてあげることが重要です。そのためには大人が自らの性について理解をすることが大切です。

    女性が自らの性を自覚し、女性目線でフェムテック開発へ

     私の故郷である豊橋市は都市部へ流出する女性が多く、隣の新城市は愛知県内の消滅都市といわれています。何かを買いに行くのも地元ではなく都心へ行くという人も多いでしょう。しかし、こうした日常の買い物をするのはほぼ女性で、子どもやお年寄りなどの世話を通してあらゆる世代に精通する視点も持っています。そんな女性たちが中心になって「こんなフェムテック商品があったらより健康な暮らしができる」と企画し、企業が新規開発や製造をする仕組みができれば、もっと暮らしが豊かになると考えています。しかも日本人が丁寧に作ったフェムテック商品であれば、世界を席巻するようなものになるでしょう。
     現代のように、多様性社会、また少子高齢化の中で、女性が活躍するためには高齢の方々にも大きく関係していきます。女性がまず自分を尊び、女性であることの強み、弱みもひっくるめて自尊心を持ち、“女性性”を自覚することが大切です。また社会全体で女性が活躍できる場を整え、サポートしていくことも欠かせません。

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    ポテンシャルが高い東三河からフェムテックのイノベーションを起こす

     東三河は歴史があり、山も海もあって食べ物も豊か。人もとてもつつしまやかで優しく、すばらしくポテンシャルが高い地域です。東三河でフェムテック商品の開発や、フェムテックに取り組む産業が発展することは、日本全体の模範につながるでしょう。何より「東三河からフェムテックを発信したい」と言い出したのが地元の女性たちだということはとても心強いことです。フェムテックを一過性のものにはせず、国の課題である少子高齢化に役立つために、これから具体的な事案をつくり、東三河から新たな「和製フェムテック」のイノベーションを起こしていきたいと考えています。

  • 関口 由紀 インタビュー

    各世代の課題に対応する
    フェムテックが重要

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    一般社団法人
    日本フェムテック協会 代表理事

    関口 由紀

    2005年4月に「横浜元町女性医療クリニックLUNA」を開設。2019年に婦人科・乳腺科と女性泌尿器科・美容皮膚科の2つのクリニックに統合。現女性医療クリニックLUNAグループ理事長。横浜市立大学大学院医学部泌尿器病態学講座 客員教授。日本フェムテック協会代表理事。

    思春期から成熟期、更年期まで自分の「今」を認識することが大切

     女性はそのライフステージによって女性特有の健康課題が異なります。まず思春期になると女性ホルモンの量が増加しますが、一気に増えるのではなく、不安定なアップダウンを繰り返しながら増加するため自律神経系やメンタルの問題が起こりやすくなります。成熟期になると乳房や子宮、卵巣および免疫、恒常性の問題が増え、更年期になるとホルモンはアップダウンしながら減少し、思春期類似の問題が起こります。さらに、特にポスト更年期はガンや動脈硬化性疾患に注意が必要な時期です。また女性ホルモンが減るので骨粗鬆症の問題も起こり、さらに70代前後からは認知症の問題も懸念されます。
     こうした女性特有の健康課題に対応するには、自分が今、どの時期にいてどういうトラブルが起こりやすいか、情報を得ることが大切です。年老いても自分で身の回りのことができ、自己判断できる人でいるためにも、各世代別の課題に対する情報を得て正しいケアを行うことが重要です。

    企業や家庭のサポートのもとにフェムテックを活用しQOLをアップ

     女性の中には出産で仕事を辞める人や、更年期になって以前より仕事のパフォーマンスが下がったので退社を選ぶ、という人もいます。日本の企業にはこうしたことを許容する文化が残っているのも事実ですが、こうした症状は医療機関にかかることで改善し就業を続けることも可能になります。またこれら女性特有の問題に対する情報や技術としてフェムテックを活用し、セルフヘルプを行うことで女性のQOLと幸福度を上げることができます。それには企業をはじめ地域や国全体が関わり、出産や生理、更年期のトラブルをサポートできる体制が必要です。家族や会社の協力のもとにフェムテックが活用できれば、子育てや親の介護と仕事の両立は可能であり、女性として、社会人としての両方の喜びを得ることにつながります。また定年まで勤める女性が増えれば、企業の人手不足解消にもつながり、双方にとって有益です。 ※QOLとはQuality of Lifeの略で「人生の質」「生活の質」などと訳されます。

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    長期的な計画を視野に入れてフェムテック商品の開発を

     フェムテックは今世界から注目されています。当然のごとく大手企業の参入も始まっていますが、まだまだ未熟な市場であり、すぐに大きな利益を上げられるとは言い難いでしょう。これからフェムテック市場に参入することを考える企業や団体は、ぜひ長期的な計画で女性のQOLと幸福度が上がるような開発に取り組んでいただきたいと思います。そうすれば、おのずとパートナーである男性の幸福度も上がることでしょう。また家庭でも、旦那さんが奥さんに協力するなど、バランスのよい環境を作ることができれば、女性も安心して子どもを生み育てることができます。女性も男性もよりよいところを認めあい協力しあえる共同社会の実現をめざして、フェムテックを開発し、また活用してもらいたいと思います。