専門家インタビュー

  • 佐々木 成江 インタビュー

    性差を考えた研究で変わるフェムテック2026/02/10 取材

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    東北大学DEI推進センター教授
    横浜国立大学ダイバーシティ
    戦略推進本部教授

    佐々木 成江

    さまざまな大学で生命科学の研究に取り組むとともに、複数の大学で学内保育園の設置や女性教員の増加に向けた施策など、女性研究者の活躍を支援。ジェンダード・イノベーションをはじめとするDEI推進も積極的に取り組み、国への提言活動も行っている。

    関心が高まる、ジェンダード・イノベーションとは?

     医学や生物分野における研究や開発では、女性には性周期があってデータがぶれやすく、解析が難しいという理由から、長らく男性のデータを中心に進められてきました。そのため、女性の健康が見過ごされがちです。例えば薬の処方は、年齢によって量を変えることはあっても男女で変えることはほぼありません。人工心臓装置のサイズも男性基準で開発されているため女性に合わない場合もあり、その結果、女性の健康被害リスクが高くなってしまっています。
     これらをなくすために研究や開発の段階から性差を考えてイノベーション創出につなげていく戦略が「ジェンダード・イノベーション」です。性差に着目することで、例えば女性の病気として捉えられがちな骨粗しょう症に男性が罹患すると死亡率が女性の2倍になることが判明するなど、男性の健康にも役立っていることがわかります。

    性差や属性に着目すると女性研究者が増える

     性差への着目は意外な発見をもたらします。例えば女性に多い慢性疼痛の研究では、オスのマウスが使われていましたが、メスのマウスを使ったところ、同じ処置をしても痛がらず、オスとは痛みの経路が違うことが判明しました。こうしたメカニズムがわかれば、男女それぞれに効きやすい鎮痛薬が開発できます。
     また性差だけではなく、人種や年齢、経済的状況などさまざまな属性を考慮した交差性分析も重要視されています。海外では研究助成の際に性差や交差性を考慮することを推奨・義務化する流れがあり、日本も男女共同参画基本計画や女性版骨太の方針などに盛り込まれ、実装に向けての第一歩を踏み出しました。性差視点を取り入れた研究テーマは女性の関心が高い傾向があり、女性研究者の参画拡大にもつながると期待できます。

    東三河の地域性を考えたフェムテックの開発へ

     東京に比べて地方ではまだフェムテックが市民権を得られていないと感じますが、ものづくりが盛んな東三河のフェムテック関連商品は、地元の麹を生かした食品などその捉え方が広義で、地域全体でフェムテックを考える機会が多くあることに感銘します。地域一体となって開発に取り組む土壌が育まれており、これからの発展が非常に楽しみです。
     ジェンダード・イノベーションの観点から言えば、農業が盛んな東三河地域においては、農業分野における性差および交差性を考慮することが大切です。健康に関する自覚症状や身体的負荷は職種により大きく異なります。だからこそ、農業に携わる女性のリアルな声に着目し、それを解決する実践的な取り組みが必要です。東三河の地域特性を活かし、都市部では着想し得ないようなフェムテック製品が生まれてほしいと思います。

    前に進む人たちを励ます大切な国際女性デー

     フェムテックが本当に社会に根付くということは、『フェムテック』という特別な言葉がなくても、女性の健康が当たり前に見過ごされない世の中になることだと考えています。社会はマジョリティのルールで動いている面があり、マイノリティ側がいくら不便さを訴えても、なかなか響きません。しかし、歴史は勝手にかわるものではありません。フェムテックの広がりもまた、現状を変えるために動いてきた方々の軌跡なのです。国際女性デーとは、そうした歴史を変えてきた歩みに思いを馳せ、前に進む人を励ます日なのだと思います。
     東三河フェムテック産業推進事業は、すでに多くの人々を巻き込んで『みんなで考えること』を体現しています。この素晴らしい取り組みが今後も続くことを願っています。

  • 野口 俊英 インタビュー

    男性が考えるフェムテックの重要性と未来2026/01/30 取材

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    Femtech Japan代表

    野口 俊英

    東京都出身。企業で約5年間、自然派生理用品ブランドのプロジェクトマネージャーを経験。快適なフェムテック製品やサービス、フェムテックの世界観を広く伝えたい思いで「Femtech Japan」を設立。東京・表参道で年2回フェムテック製品・サービス展示会「Femtech Japan Femcare Japan」を主催。

    女性だけではなく男性も知る機会が必要

     私は以前、自然派生理用品のプロジェクトマネージャーを担当していました。商品を販売する中で、私たちが開発する生理用品がお客様の心に響き、感謝の言葉をいただくことが多々ありました。こんな嬉しいことはありません。男性ではありますが、自分のライフワークとしてもっと広めたいと考えるようになり、現在の活動を始めました。最近では大手企業も福利厚生としてフェムテックに取り組み始め、大勢の男性社員の方を前に同じ男性である私がフェムテックの話をする機会も増えています。
     企業のステークホルダーは大部分が男性です。男性がフェムテックについて考えることは大切であり、結果として社会全体によい影響を与えることにもつながります。また学生に対してもフェムテックに触れる機会を作ることが必要です。これらの活動が、女性の生理による社会的な経済損失の削減にもつながると考えています。

    お互いの理解を深めつつ広めていくことが大切

     フェムテックがまだ人々に十分に知られていない課題として、「更年期障害は病気ではないから病院に行かない」とする人の多さがあげられます。一方で婦人科医は早めに来てほしいと思っています。フェムテックに取り組む人たちが、これらの情報を正しく伝える立場になれたらいいと思います。
     またフェムテックはセクシャルウェルネスと考えている人や、意識が高い人だけのもので「私には関係ない」と思っている人も多いようです。さらにフェムテックは自分の体に関するデリケートなことなので、あまりに過度な情報提供が聞く側にとって不快感を与えている場合もあります。こうした課題に対する解決法を模索しつつ、お互いに理解し合いながらフェムテックを広めていくことが大切です。

    フェムテック市場はBtoBサービスの拡大へ

     昨今のフェムテック市場は大手企業の参入が増加し、創設期のブランドが撤退する傾向が見られます。当初は吸水ショーツや化粧品など個人に対しての商品が多かったのですが、最近は企業の福利厚生用に対応するアプリやツールなどが増えてきました。
     イベントの来場者も個人の方と企業の担当者の二極化が見られます。今後、個人向けの商品はよほど差別化が図れるものでないと生き残りが難しいでしょう。またこれからは人口も減少し、生理用品などは生産量が減ってコストが合わなくなる可能性があります。このような背景を踏まえ、これからはBtoBのサービスが伸びると予想されます。

    継続的に活動する東三河が全国の旗振り役に

     フェムテックに取り組む自治体は全国にありますが、東三河のようにエリアとして継続的な伴走をしているところはまだ少ないです。東三河はものづくりが盛んな地域であり、フェムテック分野における専門家の出身が多いことから、まさに起こるべくして起こっている活動だと思います。
     地方でフェムテック産業を成功させるためには、東三河のような伴走がとても重要です。また他との差別化ができるプロダクトを市場に出せるよう、助言をするサポートも必要でしょう。さらに地域の人々への啓蒙と、プロダクトの融合をサポートする仕組みも作るべきです。他のエリアにとって参考となる東三河が、全国へフェムテック産業を広めていく旗振り役になることを期待しています。

  • 皆川 朋子 インタビュー

    フェムテックの推進が企業の価値を生み出す2025/05/08 取材

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    一般社団法人Femtech Community Japan 代表理事

    皆川 朋子

    外資系ITコンサルティングや独立系コンサルティングファー厶執行役員などに従事した後、独立系VCに女性起業家支援などに尽力。Woman’sHearthに特化するグローバル製薬会社OrganonでWoman’sHearth事業の立ち上げや拡大に関わる。

    フェムテック製品が進化し、以前より女性の健康問題について話せるように

     日本では今、女性のウェルビーイングへの注目が高まっています。理由のひとつはキャリアを続ける女性の増加です。また女性の社会的地位が向上したことや、生理管理アプリ、スマートウォッチなどのフェムテック製品が進化して安価で手に入るようになり、以前より女性特有の健康課題について話がしやすい環境になったこともあげられます。高齢の方などいまでも人前で話すことに抵抗がありタブーと捉える方も多いですが、一方で若い世代を中心にアプリなどを通じてPMSなどパートナーの健康状態を日常的に理解している人たちも増えています。このような受け止め方のギャップがある中で、それでも女性が自信をもって社会に挑戦できるよう国も男女共同参画に女性版骨太の方針を打ち出し、フェムテックを推進しています。 ※PMS(premenstrual syndrome)は「月経前症候群」と訳され、月経の前に現れる心と体の不調を意味する

    専門技術や知識が黎明期の今こそ、中小企業が取り組むチャンス

     フェムテックはまだ潜在的な市場であり、製品づくりに関する技術や知識も発展段階です。だからこそ試行錯誤が必要であり、コンパクトなチームでPDCAサイクルを回しつつ動ける中小企業にとっては取り組みやすい市場だと思います。またフェムテックに取り組むことをアピールできるのは、採用ブランディングにおいて効果的です。こうした価値を得ることは、企業としては大きなメリットです。
     日本は社会保険が確立されているため、アメリカに比べて個人がヘルスケアにお金を使いません。企業がフェムテック市場で収益化をめざすには、「フェムテック製品に支払うお金は使う個人だけではない」という仕組みの構築が求められます。すでに大企業が福利厚生としてフェムテックを導入したり、産婦人科医師によるオンライン医療相談をサービスで受けられる自治体など、本人のみに金銭的負担をかけない仕組みが作られているケースもあります。
     女性の健康に対する関心度は、地域やコミュニティによって差があります。東三河のように、各地方でフェムテックに取り組む企業がアンバサダーとなって、その地方に合ったプロモーションを行い、女性の健康課題を推進していくことで、お金に変えられない価値が生まれることでしょう。 ※Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)の頭文字をとった業務改善に関するフレームワーク

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    フェムテックをツールにして男女がお互いを思いやれる社会に

     日本はまだ「男性は、女性は」という性的な役割の認識が強いですが、今後は、ひとりひとりのライフスタイルに合わせてフレキシブルな働き方を取り入れていくことが求められます。実施すれば、企業は優秀な人材を確保でき、人にとっても会社にとっても良いサイクルに向かうことでしょう。
     フェムテックは女性特有の健康の悩みに気づけるチャンスであり、そのギャップを埋めていく取り組みです。企業としてぜひ積極的に取り組んでほしいと思います。女性だけではなく男性にも健康課題はあります。フェムテックというツールを使いながら、男性も女性もオープンに話し合い、お互いに思いやれる職場や社会になっていくことを心より願っています。

  • ゴムノイナキ株式会社インタビュー

    1世紀にわたるゴム技術を生かしたフェムテック2025/05/12 取材

    近藤 絵美氏の写真

    ゴムノイナキ株式会社

    名古屋に本社がある1919年創業の老舗ゴムメーカー。創業100年の節目に、社会的意義が高い自社製品を作るプロジェクトとして技術企画室(現:商品企画室)を発足。社会で活躍する女性に貢献しようと、生理用品の開発に取り組み、2023年に国産の月経カップ「feminak」を発売。

    ゴムノイナキ株式会社
    経営企画本部 商品企画室

    近藤 絵美

    feminakの認知拡大に努める。

    創業100周年の節目プロジェクトとして女性に貢献するものづくりに挑戦

     月経カップ「feminak」の開発は、当社が100周年の節目を迎えた2019年、自社製品を作るプロジェクトとして始まりました。ちょうどフェムテックのムーブメントが起こり始めた時と重なり、当社のゴム技術を生かした月経カップの開発に取り組むことになったのです。
     開発にあたってはまず、世界中から月経カップを集めることから始めました。形や素材、硬さなど多角的にデータを解析し、100個以上は試作を繰り返しました。当社は材料開発から設計、評価、試作まで社内で一貫して対応できます。自動車メーカーを中心とするゴム製品の供給で培った技術力と開発力が「feminak」の開発に役立ったと感じています。

    機能面やデザイン面を考慮し、認知度、使用感を高める

     「feminak」の機能面の特徴は、シール性(経血の漏れにくさ)の高さにあります。女性は人によって膣の大きさや経血量が違います。またスポーツをよくする人や経産婦など、ライフスタイルやシーンによっても生理用品の使い方や仕様は変わります。これらについて綿密なリサーチを行い、他社製品も徹底的に研究しながら、ゴムの厚さも考慮しつつカップの空間の効率化を図りました。その結果、8種類の月経カップが誕生しました。
     ナプキンがいらない吸水性ショーツなど、第3の生理用品は日本ではまだ使用度が低く、生理用品全体の約3%程度。特に月経カップは低いといわれます。やはり「使うのが怖い」と感じる人が多いようです。こうした恐怖感を払拭できるよう、パッケージデザインにも力を入れました。愛らしい花柄を施した箱に加え、使用後に洗った月経カップを乾燥させて清潔に保管ができるよう、ケースにも工夫を凝らしています。
     ミーティングを重ねて作り込んでいった結果、女性の情緒に訴求できるものが完成したと思っています。社外モニターの方々からも「かわいい」「使ってみたら怖くなかった」と多くの感想をいただくことができました。

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    フェムケア製品の開発と販売を通じてさらに女性のウェルネスに貢献

     フェムテック製品の開発によって、社内にも意識変化が起こっています。管理職は、生理痛体感デバイスによる生理痛体験会を行いました。また社内に「誰でも使えるトイレ」が設置され、女性生理用品の補助も行われるなど、会社として女性のウェルネスに対する理解を深めようと動き始めています。
     今年の秋から冬にかけては自社でコンセプトを設計したデリケートゾーンの保湿製品やソープ、月経カップのクレンジングを販売する予定です。「100年ゴム屋の月経カップ」として女性の皆さんからの信頼を得た今、次はフェムケア製品で女性のウェルネスに貢献をしていきたいと考えています。

  • 北 奈央子 インタビュー

    フェムテックが地域の一体感を生む2025/1/18 取材

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    株式会社ジョコネ。代表取締役
    NPO法人女性医療ネットワーク理事

    北 奈央子

    愛知県豊橋市出身。早稲田大学理工学部卒業・修了(工学修士)。「医療・健康」「女性」「自分らしく」をキーワードに、医療者と一般をつなぐ女性のヘルスリテラシーの研究をスタート。女性の健康の悩みを解決に結びつけるために「徹底的に女性目線」で活動を行っている。

    フェムテック分野での起業を思い立った30代

     順調にキャリアを積んでいた30代半ば頃に婦人科系の病気をしたことが、自身の意識を変える大きな転機になりました。子宮内膜症を患い、診断を受けたときはかなり症状が進んでいることが判明。私は手術を選択し、その後子どもを授かることもできましたが、今までの生き方に課題を感じました。「自分の体のことなのに何も知らずに過ごしてきた」という反省です。
     病気に罹ったのと、これからのキャリアを考えるタイミングが重なり会社を辞めました。そして起業しようと思い立ちます。その流れで「ヘルスリテラシー」について学びたくなり、聖路加国際大大学院に進学。個人が知識を習得することの大切さに加え、社会環境の整備の重要性も感じました。いくら知識があって意識が高くても、環境が整っていなければ行動することができません。その気づきから、組織としてきちんとしたサービスの提供ができる会社を起業しようと思ったのです。 ※健康や医療に関する情報を得て活用する能力を意味する

    女性たちの熱い思いが東三河フェムテックを推進

     東三河フェムテック産業推進事業には最初から携わっていますが、関係者の皆様の熱量の高さにいつも驚かされます。事業のスタート時からずっとです。アクティブな姿を目にすると、本当にこの事業がこの地域に求められていることを実感できます。女性アドバイザーの方たちの中には、東京でフェムテックのイベントがあったときに、わざわざ豊橋から参加された方もいらっしゃいます。彼女たちから、自分が生まれ育った地域で活躍し貢献できる喜びがひしひしと伝わってくるのです。私も豊橋出身ですからその気持ちがうれしく、そしてよくわかります。
     事業者の皆様の意欲も本当に高く、「フェムテック」という言葉に触れたのは初めての方もいらっしゃいましたが、いざ事業が始まれば勉強熱心で、試作品の提出も欠かしません。楽しそうに議論を重ねる様子から、すごくいい場が育成されているのを感じます。誰かにやらされているのではなく、チームで協力して新しいモノやサービスを生み出す場となっています。※東三河フェムテック産業推進事業では、地元企業と女性が協同しフェムテック新商品の企画・開発を進行中です

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    フェムテック産業を支える東三河の高いポテンシャル

     フェムテック産業を支える豊かな資源が東三河には備わっています。山も海も川もある地形に恵まれ気候が穏やか。野菜や果物などが豊富に収穫でき、こうした食材を使った商品の開発に有利です。三河木綿を筆頭に繊維産業も古くから栄えています。繊維は、洋服や寝具など、フェムテックの中でもイノベーションを起こしやすい大事な領域です。
     「農業」「産業」に加え、「人」のポテンシャルの高さも東三河の財産となっています。地元の女性たちの「東三河からフェムテックを発信したい」という思いが強く、フェムテック事業を推進する原動力となっています。大都市で行うより、地方都市の方が個人同士の結びつきが親密で、一体感があるのではと感じています。フェムテック事業は、女性たちが求めていた「つながりの場」であり「思いを叶える場」にもなっているのです。

  • 向井 桃子 インタビュー

    フェムテックが女性の人生を豊かにする2025/1/30 取材

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    株式会社Mona company
    代表取締役

    向井 桃子

    美容師や飲食店のマネージャーを経験。働きながら子育てをする中で月経について考えるようになり、月経ディスクに出会い企画・製造をスタート。2023年2月にインターネットで月経ディスク「MOLARA」の販売を開始。同年10月に日本起業アイディア実現プロジェクト「女性起業チャレンジ大賞」特別賞を受賞。

    月経ディスクと出会い 多くの人に広めたいと起業

     2人目の子を産んだ後から産後の出血量が多く、真夏はナプキンで過ごすと股が痒くて眠れない日が続きました。子育てが多忙でトイレにも思うように行けない状態だった私に夫がオーガニックナプキンを買ってきてくれて、今まで気になっていた嫌な匂いが気にならないことに驚きました。「娘が成長したら生理用品についてきちんと話せるようになりたい」と思い世界中の生理用品を試す中、友人から月経ディスクを教えてもらって。使ってみたらとても快適で、「もっと多くの人に知ってほしい」と起業を決意。コロナ禍で「インターネットで消耗品を販売する仕事をしたい」という気持ちもあり、拍車がかかりました。
     製造にあたっては国内の多様なメーカーにコンタクトを取り続け、名古屋市にあるゴムノイナキ株式会社がタッグを組んでくれることになりました。それまで国内にはない製品だったので設備もいちから作ることになり、フィルムの加工に苦労しましたが、「作れない」という不安はまったくなかったです。

    SNSを使って認知拡大 多様な人々に役立つと実感

     YouTubeの「令和の虎」に出演して資金調達を行い、2年半かけて月経ディスクを開発しましたが、今までにない生理用品だったので「怖い、痛そう」というイメージが先走ってしまい、認知拡大に苦労しました。メディアやイベント出店、インフルエンサーマーケティングなどいろいろな媒体でPRを行い、2000人以上にサンプリングもしましたが、TikTokライブは一番効果がありました。実際に使った人のコメントも認知の後押しにつながり、今では年間約20万人が月経ディスクを検索してくれています。
     経血の量が多くて困っていた、という方からはもちろんのこと、視覚障害者の方からは「ナプキンがどの程度汚れているのかわからないが月経ディスクなら心配がない」、また寝たきりの女性からは「ナプキン交換を男性ヘルパーにお願いすることもあったが、月経ディスクなら交換頻度が少ないので女性ヘルパーのタイミングに合わせられる」という声が届き、さまざまな人たちに役立っていることを実感しています。

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    生理用品の知識を広めて女性が働きやすい環境へ

     生理用品には多種多様な種類があるので、イメージに囚われず、まずはなんでも試して自分に合ったものを見つけてほしいと思います。何も試さずに悩み続けるのは時間がもったいない。自分に最適な生理用品が見つかることで、人生が劇的に変わると思います。
     東三河はメーカーの工場が多く、女性も多く働いています。長時間座ったままで働く女性にとって、快適な生理用品は必須。こうした女性の声を聞くことで今よりもっといいフェムテック商品が開発できると思っています。私たちもこの地域の女性が自分らしく働き、輝ける環境づくりのお手伝いができればと考えています。そのために今後は、学校でセミナーも行いたいと思っています。生理の仕組みだけではなく、生理用品についてきちんと理解し、説明ができる女性を将来的に増やしていきたい。フェムテックに力を注ぐ東三河からこの活動を始めることができたら、とてもうれしいです。

  • 森田 敦子 インタビュー

    東三河発信のフェムテックが
    日本の模範に2024/5/2 取材

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    株式会社サンルイ・
    インターナッショナル
    代表取締役
    Waphyto ファウンダー

    森田 敦子

    愛知県豊橋市出身、植物療法士。株式会社サンルイ・インターナッショナル代表。株式会社Waphyto代表。客室乗務員勤務時代に体を壊したことがきっかけでフランス国立パリ13大学で植物薬理学を学ぶ。女性のトータルライフケアブランド「Waphyto」を立ち上げ、フェムテックやフェムケアに関する活動を積極的に展開。

    神秘的な女性の体の中にこそテクノロジーが存在する

     本来、フェムテックとは女性の体に起こるさまざまな健康課題を解決するためにテクノロジーを活用することですが、私は、そもそもフェムテックとは、女性の体そのものにあると考えます。生理が始まり、排卵、受精、着床して子どもを宿し、その子を守るために自然と体調が変化する。こうした神秘的な女性の体の中にこそテクノロジーがあると思っています。
     私はパリで薬草学を学んだ時、食欲や睡眠欲と並んで人間の本能のひとつである性科学について正しい知識を持つことが大切だと教わりました。海外とは違い日本では明治以降、女性が性について話したり、性欲があるというのははしたないことと考えられ、今も広く語られることはありません。小学校では子どもたちに対して性教育が行われますが、真髄がきちんと語られていないことが多いと感じています。思春期の女の子たちは性の悩みについてお母さんや先生には相談しづらい、と思っているのも現状です。
     性は人間の尊厳であり、誕生につながる大切なことです。まずは将来のために、子どもたちに対して女性の体にあるテクノロジーをしっかりと教えてあげることが重要です。そのためには大人が自らの性について理解をすることが大切です。

    女性が自らの性を自覚し、女性目線でフェムテック開発へ

     私の故郷である豊橋市は都市部へ流出する女性が多く、隣の新城市は愛知県内の消滅都市といわれています。何かを買いに行くのも地元ではなく都心へ行くという人も多いでしょう。しかし、こうした日常の買い物をするのはほぼ女性で、子どもやお年寄りなどの世話を通してあらゆる世代に精通する視点も持っています。そんな女性たちが中心になって「こんなフェムテック商品があったらより健康な暮らしができる」と企画し、企業が新規開発や製造をする仕組みができれば、もっと暮らしが豊かになると考えています。しかも日本人が丁寧に作ったフェムテック商品であれば、世界を席巻するようなものになるでしょう。
     現代のように、多様性社会、また少子高齢化の中で、女性が活躍するためには高齢の方々にも大きく関係していきます。女性がまず自分を尊び、女性であることの強み、弱みもひっくるめて自尊心を持ち、“女性性”を自覚することが大切です。また社会全体で女性が活躍できる場を整え、サポートしていくことも欠かせません。

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    ポテンシャルが高い東三河からフェムテックのイノベーションを起こす

     東三河は歴史があり、山も海もあって食べ物も豊か。人もとてもつつしまやかで優しく、すばらしくポテンシャルが高い地域です。東三河でフェムテック商品の開発や、フェムテックに取り組む産業が発展することは、日本全体の模範につながるでしょう。何より「東三河からフェムテックを発信したい」と言い出したのが地元の女性たちだということはとても心強いことです。フェムテックを一過性のものにはせず、国の課題である少子高齢化に役立つために、これから具体的な事案をつくり、東三河から新たな「和製フェムテック」のイノベーションを起こしていきたいと考えています。

  • 関口 由紀 インタビュー

    各世代の課題に対応する
    フェムテックが重要2024/5/22 取材

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    一般社団法人
    日本フェムテック協会 代表理事

    関口 由紀

    2005年4月に「横浜元町女性医療クリニックLUNA」を開設。2019年に婦人科・乳腺科と女性泌尿器科・美容皮膚科の2つのクリニックに統合。現女性医療クリニックLUNAグループ理事長。横浜市立大学大学院医学部泌尿器病態学講座 客員教授。日本フェムテック協会代表理事。

    思春期から成熟期、更年期まで自分の「今」を認識することが大切

     女性はそのライフステージによって女性特有の健康課題が異なります。まず思春期になると女性ホルモンの量が増加しますが、一気に増えるのではなく、不安定なアップダウンを繰り返しながら増加するため自律神経系やメンタルの問題が起こりやすくなります。成熟期になると乳房や子宮、卵巣および免疫、恒常性の問題が増え、更年期になるとホルモンはアップダウンしながら減少し、思春期類似の問題が起こります。さらに、特にポスト更年期はガンや動脈硬化性疾患に注意が必要な時期です。また女性ホルモンが減るので骨粗鬆症の問題も起こり、さらに70代前後からは認知症の問題も懸念されます。
     こうした女性特有の健康課題に対応するには、自分が今、どの時期にいてどういうトラブルが起こりやすいか、情報を得ることが大切です。年老いても自分で身の回りのことができ、自己判断できる人でいるためにも、各世代別の課題に対する情報を得て正しいケアを行うことが重要です。

    企業や家庭のサポートのもとにフェムテックを活用しQOLをアップ

     女性の中には出産で仕事を辞める人や、更年期になって以前より仕事のパフォーマンスが下がったので退社を選ぶ、という人もいます。日本の企業にはこうしたことを許容する文化が残っているのも事実ですが、こうした症状は医療機関にかかることで改善し就業を続けることも可能になります。またこれら女性特有の問題に対する情報や技術としてフェムテックを活用し、セルフヘルプを行うことで女性のQOLと幸福度を上げることができます。それには企業をはじめ地域や国全体が関わり、出産や生理、更年期のトラブルをサポートできる体制が必要です。家族や会社の協力のもとにフェムテックが活用できれば、子育てや親の介護と仕事の両立は可能であり、女性として、社会人としての両方の喜びを得ることにつながります。また定年まで勤める女性が増えれば、企業の人手不足解消にもつながり、双方にとって有益です。 ※QOLとはQuality of Lifeの略で「人生の質」「生活の質」などと訳されます。

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    長期的な計画を視野に入れてフェムテック商品の開発を

     フェムテックは今世界から注目されています。当然のごとく大手企業の参入も始まっていますが、まだまだ未熟な市場であり、すぐに大きな利益を上げられるとは言い難いでしょう。これからフェムテック市場に参入することを考える企業や団体は、ぜひ長期的な計画で女性のQOLと幸福度が上がるような開発に取り組んでいただきたいと思います。そうすれば、おのずとパートナーである男性の幸福度も上がることでしょう。また家庭でも、旦那さんが奥さんに協力するなど、バランスのよい環境を作ることができれば、女性も安心して子どもを生み育てることができます。女性も男性もよりよいところを認めあい協力しあえる共同社会の実現をめざして、フェムテックを開発し、また活用してもらいたいと思います。